未来⽩書 20.0 (State of the Future 20.0)
これは、500ページに及ぶレポート『未来の状況 20.0』の公式要約版です。
エグゼクティブサマリー
現在⽣きているほとんどの⼈々は2050年にも⽣存しているし、今まさに誕⽣する⾚ん坊は、 2100 年まで⽣きるだろう。現在の世界には地球規模で⼈類が絶滅するリスクが存在する、 という点についての認識は深まりつつある。国家や企業、NGO、⼤学、国連システムが協 ⼒すれば、このようなリスクに適切に対処し、すべての⼈にとって素晴らしい未来を実現す ることができるだろう。しかし、ゼロサムの地政学的競争がその実現を阻んでいる。地球温 暖化、AI の未来、合成⽣物学、戦略兵器などの問題で⽶中が協⼒しなければ、未来を楽観 視することは難しい。
⼈類は、破綻の道か躍進か、厳しく緊急の選択を迫られている
国連事務総⻑ アントニオ・グテーレス
メディアは、最も恐ろしいニュースを連⽇伝えている。しかし、⼈類の多くは平和に暮らし ているし、⾃分たちだけでなく⼈類の未来について真剣に考えるようになっている。今では、 世界の知識の多くを⼈類の 6 割以上が⾃由に利⽤できる。1996 年以来、ミレニアムプロジ ェクトは、第 1 章で紹介するグローバルチャレンジの各項⽬のデータを毎年更新してきた。 このデータを⾒ると世界は総じてより良いものになってきているということが分かる。第 2 章では、29 の変数に基づく「未来指数(SOFI)」について説明する。ここでは、改善してい る変数の⽅が悪化している変数よりも多いことが⽰される。世界はより良くなっていると ⾔える理由の⼀つであるが、しかし、状況が悪化している分野、あるいは進展がほとんどみ られない分野においては、未来は⾮常に深刻なものになるだろう。⼈類はより健康で、より 裕福になり、より良い教育を受け、より⻑⽣きし、より繋がるようになった。しかし、その 代償として環境が破壊され、地球温暖化が進み、富は⼀部の超富裕層に集中するようになっ た。悲観する必要はないが、過去の成功に安住することは許されない。
SOFI は、もし 29 の変数について現在のトレンドが続けば、2035 年には⼈類は現在よりも 良い状態にあることを⽰している。私たちが正しく⾏動すれば、さらに先の⼈類の未来はと ても素晴らしいものになるかもしれない。第 4 章では、2045 年に実現するかもしれない素 晴らしく美しい未来の可能性について紹介する。
図 1. 2035 年までの SOFI の推移
2050 年の⼈⼯知能(AI)は、現在のものとは⼤きく異なるだろう。2100 年の AI は、さら に⼤きく異なるだろう。現在⽣きているほとんどの⼈々は、2050 年には⾮常に⾼度な AI と ともに⽣きることになり、今⽇⽣まれてくるほとんどの⾚ん坊は、はるかに進化した AI が ⽀配する世界で⽣きることになる。AI がどのように未来を変えるのかについて、⼗分な注 意を払う必要があるのだ。
AI の管理は、⼈類がこれまで直⾯した中で最も複雑で困難な問題かもしれない。これに対 して、スチュアート・ラッセルは 3 章でこう語っている。「AGI(汎⽤⼈⼯知能)システム が構築される前にこの問題を解決できなければ、⼈類⽂明にとって致命的な過ちとなる。そ のような間違いを犯す権利は誰にもない。」 しかし、今のところ⼈類がその過ちを犯すこ とを⽌めるものは何もない。AGI は今後 10 年以内に到来する可能性がある。だからこそ、 AI が現在の形から AGI へと進化する、その移⾏プロセスを管理するために、国家や超国家 的なガバナンスの仕組みを今すぐ構築し始める必要がある。上⼿くいけば、AI の進化は⼈ 類の利益となるだろうし、全ての⼈に素晴らしい未来をもたらす助けとなるだろう。
の利益となるだろうし、全ての⼈に素晴らしい未来をもたらす助けとなるだろう。 ⼤まかに⾔って、AI には “narrow”(特化型)、“general”(汎⽤型)、そして“super”(超知能) の 3 種類がある。特化型の⼈⼯知能に分類される AI は、がんの診断や⾃動⾞の運転などの 限定的な⽤途に利⽤されるものから⽣成 AI まで多岐にわたる。⽣成 AI は、多くの質問に 答えたり、コードを⽣成したり、報告書を要約するもので、今まさに急速に進歩している。 汎⽤的な AI はまだ実現していないが、専⾨家の多くは、AGI は数年以内に実現すると考え 3 ている。AGI とはその名の通り汎⽤的に利⽤できる AI であり、⾃ら学び、コードを編集し、 ⾃律的に⾏動することができる。AGI が実現すれば、⼈間と同じような、あるいは⼈間の能 ⼒を超えた斬新な解決策で多くの新たな課題を解決することができるだろう。例えば、ある ⽬的が与えられれば、AGI はデータソースを照会し、⼈間に電話をかけ、⾃らのコードを書 き換えて、その⽬的を達成するための能⼒を⽣み出すことができる。⼈⼯超知能は、⾃ら⽬ 的を設定し、⼈間の管理から独⽴して⼈間の理解を超えた⽅法で⾏動する。数千の AGI が 規制されずに相互に交流し、その結果⼈⼯超知能を誕⽣させることになれば、⼈類に存亡の 危機をもたらすだろう。第 3 章では、特化型 AI から AGI への移⾏をどのように管理すべき かについて詳述する。同章の第 1 節では、まず北⽶、中国、英国、ロシア、EU の AGI の 第⼀⼈者 55 名に対し、AGI への移⾏に関する 22 問の重要な質問を問いかけ、彼らの⾒解 をまとめている。第 2 節では、299 ⼈の未来学者と専⾨家により、AGI に関する 40 の潜在 的な規制とそれに関連する問題、また、AGI を地球規模で管理する 5 つのグローバルガバ ナンスモデルについての国際的評価を⾏った。
⽶国や中国、EU、⽇本、ロシア、そしていくつかの巨⼤企業は、ライバルに先駆けて AGI を実現し桁違いの演算能⼒を持つ量⼦コンピュータを実現しようと競争している。核軍拡 競争はこのような技術によって激化しているが、より重要なのは、こうした技術そのものが 現代の競争の中⼼となりつつあることだ。この競争に勝利するという⼤義名分のもと安全 への配慮が軽視され、AGI 開発の前提となるべきルールや、AGI を適切に管理するための ガバナンスシステム無しに AGI が実現してしまう可能性がある。その結果、我々の理解や 制御のおよばない、規制されていない何千もの AGI から⼈⼯超知能が出現するかもしれな い。そしてそれは、⼈類の利益とはならないだろう。多くの AGI は、我々が理解できない ような洗練された形で交流し、競争し、そして同盟することができる。これにより、地政学 的に全く新しい光景が誕⽣する。LLM(⼤規模⾔語モデル)や LMM(⼤規模マルチモーダ ルモデル)よりも優れたアプローチが⾒つからないかぎり、このような未来を実現するため には膨⼤なエネルギーが必要になる。
とはいえ、AI の普及は避けられないと思われる。AI なしでやっていくには、⼈類の⽂明は 複雑になりすぎたのかもしれない。
初歩的な量⼦コンピューティングはすでに実現しており、多くの⼈が考えるよりも早く進 歩するだろう。しかし、量⼦コンピューティング技術が社会実装されるまでには、⼈々が期 待するよりも⻑い時間がかかると思われる。実現すれば、サイバーセキュリティや AI 技術、 コンピューターサイエンスは進歩し、その結果、科学的ブレークスルーと技術の進歩が加速 する。これにともない、⼈類が受ける正の影響も負の影響も⼤きくなるだろう。こうした未 来がありうるという事実から⽬を背け、知らないふりをし続けることは許されない。政治家 4 は、こうした問題を理解しなければならない。科学技術の進歩と世界のリーダーたちの理解 のギャップは危険なほど⼤きい。
⼀⽅、地球の気温は記録を更新し続け、海⾯上昇と海洋酸性化が進み、海流が減速し、氷河 や氷冠が溶け、サンゴ礁は減少している。気候変動によって、⼲ばつやハリケーン、⻯巻、 洪⽔など様々な災害が激甚化し、より頻発するようになっている。
地球温暖化が原因のひとつである⾃然災害による被害額は、2023 年には 2,800 億ドルに達 し、今後 10 年でさらに倍増すると⾒られている。今後 CO2やその他の温室効果ガスが全く ⼤気中に排出されなかったとしても、地球環境が新たな平衡状態にたどりつくまで、今後数 ⼗年はこうした状況は悪化の⼀途を辿るだろう。しかし、将来の気候変動の深刻さに対する 備えはできていない。
1950 年に 25 億⼈だった世界の⼈⼝は、2020 年には 61 億⼈に増え、現在は 80 億⼈を超え ている。今後 25 年で、世界の⼈⼝は今より 20 億⼈も増加する可能性がある。地球温暖化 が⾷い⽌められなければ、貧しい地域から豊かな地域への⼤移動は避けられないだろう。
新型コロナウイルスのパンデミックは、史上初めて世界規模での「⼩休⽌」を⼈類に引き起 こし、⼈類が全てを再考するきっかけとなった。パンデミックは、地球規模で⾃分たちが相 互に依存しているという⼈類の集団意識を⾼め、同時に、教育や仕事、会議から医療まで、 様々な分野での AI や遠隔操作技術の実装を加速した。
多くの⼈にとって、複合現実は新しい現実となった。また、パンデミックにより CO2 排出 量は減少し、化⽯燃料への依存度が下がった。しかし、パンデミックはコンピューターチッ プから⽯油に⾄るまで、あらゆるサプライチェーンを破壊した。世界の中間層は 5,400 万⼈ 減少し、極度の貧困に苦しむ⼈の数は約 1 億⼈増加した。パンデミックによる死者は 1,500 万⼈以上と⾒積もられている。またパンデミックによる影響は、世界的な早期警戒システム や⼈類の集団的責任、そして将来への洞察⼒といったものの重要性を⾼めることになるか もしれない。
⽣物学的には、⾃然災害や⼈災の後には新たな成⻑が起こる。歴史的にも、災害の後にイノ ベーションが起こることはある。第⼆次世界⼤戦の焼け跡から、国連をはじめとする多国間 組織が誕⽣し、⼈類全体の進歩を⽀えた。新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした グローバルな医療、経済、そして⼼理的な災害から何がうまれるのかはまだ分からない。パ ンデミックが引き起こした不況は⼤恐慌以来最⼤のものであったが、世界中で 11.5 兆ドル を超える緊急の財政出動が⾏われ、不況が⼤恐慌へと悪化することを⾷い⽌めることがで 5 きた。その⼀⽅で、世界的なインフレが⽣じることとなった。
ウクライナ戦争は穀物や肥料の供給を減らし、世界的なインフレに拍⾞をかけたが、再⽣可 能エネルギーへの投資を増やし、ヨーロッパの⽯炭や⽯油への依存を減らす努⼒を加速さ せた。そして残念ながら、ウクライナ戦争により、⼈類はこの 35 年間で初めて、核戦争の 瀬⼾際に追い込まれようとしている。
核の瀬⼾際外交が地政学に戻ってきたとはいえ、世界の⼤半は平和に暮らしている。ウクラ イナ侵攻を除けば、⼤国間の国境を越えた戦争は 70 年以上起きていない。しかし、戦争の 性質は今⽇、次のように変化している。1) 国境を越えたテロリズムと局地的テロリズム (2023 年、テロによる死者は 22%増加した。これは 2017 年以来最⼤の⽔準だが、2015 年 のピークに⽐べると 23%低い。ただし、テロリズムに関するデータは、その定義やデータ 収集⼿法が⼤きく異なるので⽐較には注意が必要である)、2)⺠間軍事組織によるものを含 む、内戦への国際的な介⼊(例えばエチオピア、ガザ・イスラエル、ハイチ、マリ、シリア、 イエメンなど)、そして、3)公には否定されているサイバー戦争と情報戦争。
情報戦は(コンピュータ、ソフトウェア、指揮統制システムを攻撃するサイバー戦とは異な り)、ターゲットが気づかないうちにターゲットが信頼する情報を操作しする。その結果、 ターゲットは⾃らの利益に反して、情報戦を仕掛けた側の利益になるような決定を下して しまう。何千、何百万もの AI によって操作されるボットによるフェイクニュース、ディー プフェイク動画、そしてその他の形態で拡散される虚偽情報は、真実についての我々の認識 を操り、社会の分断を深め、様々な組織の名誉を貶め、ニュースに対する信頼を失墜させて いる。そして⼈々は⾃らを守る術を持たない。オックスフォード⼤学によると、2017 年に は、28 カ国において組織的にソーシャルメディアを操作しようとする試みが実施された。 その数は、その 2 年後には 70 カ国に増え、今では世界中のソーシャルメディアに被害は拡 散している。
予測分析と偽情報による攻撃についてのデータベースを利⽤すれば、偽情報による攻撃を 事前に予測し予防的介⼊を⾏うことが可能かもしれない。このような介⼊を繰り返し、その フィードバックから学ぶことで、情報戦により効果的に対応できるようになるだろう。今後 は、偽情報を特定し削除することだけを⽬的とするのではなく、攻撃を予測し、攻撃の前に 介⼊することを⽬指す必要があるかもしれない。そうでなければ、ますます⾼度になる AI によって情報汚染が加速し、社会の結束が破壊される可能性がある。
合成⽣物学、材料科学、AI 技術の動向を踏まえると、いずれは個⼈が単独で⼤量破壊兵器 を製造し、配備できるようになるだろう。この可能性を防ぐためには、以下の 3 つの⼿法が 6 考えられる。l)国家による技術的な対応、(2)教育や公衆衛⽣に認知科学の知⾒を適⽤し、 精神疾患を減らす、3)健全な⾏動を育成し、錯乱した個⼈の⾏動を防⽌するための家族、 地域社会、⼀般市⺠向けのプログラムの実施。
新型コロナウイルスのパンデミックは、国家戦略や国境を越えた戦略、そしてグローバルな 意思決定には、グローバルな洞察⼒が必要だという意識を⾼めた。本書で紹介する 15 のグ ローバルチャレンジは、その名の通りグローバルな課題であり、その解決策も国境を越えた ものにならざるをえない。それにもかかわらず、グローバルレベルで意思決定や実施を⾏う 仕組みはほとんど存在しない。⼈間の経験の多くはグローバル化しているが、ガバナンスは そうではない。ガバナンスシステムは、拡⼤するグローバルな相互依存と社会や技術変化に 追いついていない。この状況を変えグローバルな意思決定を改善するため、国連事務総⻑は 2021 年に発表した「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」において、5 つのフォ ーサイト戦略を提案した。5 章では、これらの戦略の評価を⾏った。世界中の未来学者と専 ⾨家からなる国際パネルは、これらの戦略と国連改⾰案をグローバルな意思決定を改善す るものとして圧倒的に⽀持している。中でも注⽬の戦略は、国連で 2024 年に開催された国 連未来サミットである。世界中の何百万⼈もの⼈々と何千もの組織がサミット前の計画に 意⾒を提供し、より良い未来を実現するためにはグローバルな協⼒関係の改善が必要だと いうことに世界が注⽬した。
インターネットが普及し始めた 1970 年代や 1980 年代には、倫理的な問題について議論さ れることはほとんどなかった。今では、世界中で AI の倫理的な問題や安全性について、は るかに多くの議論がなされている。これは、⼈類が未来を評価し、予測し、そして実現して いくことにより⼤きな責任を持つようになってきていることの表れである。もちろん、⼈類 がどの程度成功するかはまだわからない。しかし、⺠主主義や地球環境、社会の結束に対す る深刻な脅威があるにせよ、全体として⼈類は正しい⽅向に進んでいると⾔えるだろう。
1980 年には、世界の⼤半が極度の貧困にあえいでいたが、現在ではその割合は 10%以下と なり、世界の 3 分の 1 が中間層である。もちろん、これは中国とインドの成⻑によるとこ ろが⼤きいが、その他の低所得国も急速な技術⾰新の恩恵を受けることが期待されている。 1980 年の世界の平均寿命は 60 歳強だったが、現在は 70 歳強である。⼀⼈当たりの所得は、 1980 年の 2,588 ドルから 2024 年には 13,840 ドルに成⻑した。1980 年には 67.6%であっ た世界の識字率は、今では 88%である。世界⼈⼝の 90%以上が電気を利⽤できるようにな った。1980 年にインターネットを利⽤できる⼈はほとんどいなかったが、2024 年 4 ⽉まで にその数は 55 億⼈まで増加した。世界経済は約 3.2%で成⻑しており、2025 年には 115 兆 ドル規模に達すると予想されている。過去 20 年間でほぼ 3 倍に成⻑した。
しかし、地政学的なゼロサムゲームにあまりにも多くのリソースが費やされている。このリ ソースは、国家間の競争ではなく、シナジーを⽣み出すことに投資されなければならない。 そうすれば、地球温暖化を⾷い⽌め、未来の AI や合成⽣物学を管理し、情報戦争に反撃し、 その他のグローバルな課題により真剣に取り組むことができるようになるはずだ。政府や ⼈々の間にシナジーを⽣み出すのではなく、地政学的なゼロサムゲームを続ける限り、何ら かの形で紛争は続くだろう。
この報告書は、複雑な世界情勢を乗り切り、すべての⼈々にとってより持続可能で、公平で、 愛に満ちた未来を⽬指すために不可⽋な道しるべである。

